鼻のしくみと働き
鼻は外鼻、鼻腔、副鼻腔の3つの部分より出来ています。日常に用いられる「はな」といえば、顔の正面に突き出ている部分をさしていますが、この部分を専門的には外鼻といいます。
鼻腔とは、鼻の穴からのどに続く穴までの空間をいいます。副鼻腔は鼻腔の周囲の骨の中にあるたくさんの空洞の部分をさしています。すなわち、副鼻腔は鼻腔につながる4つの空洞(上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞)からなりたっています。
上顎洞は、頬骨の中の空洞で4つの副鼻腔の中では最も大きい空洞です。
篩骨洞は、両眼の間の骨の中の空洞で大小不同の数多くの空洞です。
前頭洞は、おでこの骨の中の空洞です。
蝶形骨洞は、鼻腔の奥の骨の中の空洞です。
鼻の働きには3つあります。
第一に、鼻は呼吸器の一部として働いています。鼻は肺に入る空気に適当な温度と湿度を与え、空気中の塵や細菌を取り除いて、のどを保護しています。
第二に、鼻はにおいを嗅ぐという働きがあります。嗅覚は空気中の刺激物質が鼻腔上部の粘膜(嗅上皮)にある嗅細胞で感知され、嗅神経を通って大脳の嗅覚中枢に伝わり、においを感じます。
第三に、鼻は自分の声を共鳴させて音色をよくするはたらきをしています。副鼻腔は共鳴作用があるとされています。
代表的な鼻の病気
鼻の病気には鼻出血、鼻アレルギーなどもありますが、急性副鼻腔炎、慢性副鼻腔炎などの服鼻腔の炎症も代表的な鼻の病気の1つです。特に慢性副鼻腔炎は欧米人に比べて日本人にやや高頻度にみられるので、我が国では鼻の重要な病気の1つと考えられています。
副鼻腔の名称と位置
原因・症状
急性副鼻腔炎は、かぜをひいたときなどの急性鼻炎に引き続き発症することが多く、このような発症の引き金はかぜのウイルス感染が原因であるといわれています。その後、細菌感染に移行します。
急性副鼻腔炎の一般的な症状は、鼻がつまり、粘液を含んだ鼻汁(はなみず)がたえず鼻から出たり、またはのどに回ったりします。これを後鼻漏といいます。最初はやや水っぽい鼻汁ですが、段々と粘膿性あるいは膿性に変わっていきます。副鼻腔の中で炎症を起こしやすいのは上顎洞、次いで篩骨洞です。
まれに、前頭洞が炎症を起こすと額や目の間が痛んだり、額が重く感じたりします。
治療
治療は抗生物質や抗炎症剤を内服投与します。また、副鼻腔内を洗浄したあとに、抗生物質を上顎洞内に直接注入することもあります。鼻腔内に血管収縮剤をスプレーした後、抗生物質などをネプライザーを使って噴霧吸入することも有効です。
慢性副鼻腔炎
原因・症状
慢性副鼻腔炎は、急性副鼻腔炎を繰り返すうちに症状がいつまでも続くようになったものです。細菌による感染やアレルギー、遺伝的素因などが要因としてあげられています。以前は、慢性副鼻腔炎を蓄膿症と呼ぶことがありましたが、蓄膿とは副鼻腔に膿がたまっている状態を表現したもので慢性副鼻腔炎の一症状であるにすぎないのです。
慢性副鼻腔炎は欧米人に比べて、日本人においてやや高頻度にみられます。この病気は4〜5歳の幼児期にすでに認められ、小児期に初発する場合が多いようです。また、両親のどちらかが慢性副鼻腔炎の場合は体質が似ていますので、鼻の炎症が慢性化しやすく注意が必要です。
主症状は急性副鼻腔炎と同じで、鼻閉感と鼻汁です。鼻汁は粘稠性で、鼻汁がのどの方にも回ること(後鼻漏)が多いようです。また、鼻がつまってしまうために嗅覚が低下し、頭痛や注意力の散漫などの神経症状を起こすこともあります。
治療
たんぱく質やビタミンに富んだ食品は予防に有効であるといわれています。また、鼻をかむ習慣をつけ、急性鼻炎、急性副鼻腔炎にかかったときは、慢性副鼻腔炎に移行しないためにも早期に十分な治療を行うようにしましょう。治療は、抗生物質などを内服投与します。また、ネプライザーにより抗生物質などの噴霧吸入を併用して行うこともあります。また、副鼻腔内を洗浄し、薬剤を直接副鼻腔内に注入することもあります。
副鼻腔炎と後鼻漏
鼻汁はかならずしも鼻の前の方からだけ出るとは限らず、のどに下りる「後鼻漏」があります。
よく、鼻汁も出ないし、鼻をかむこともないのに副鼻腔炎と診断されて驚くお母さんがいますが、のどの奥にへばりついている濃い鼻汁を見ると納得します。
本来、鼻の中の鼻汁はのどに送られ排泄されることが多く、鼻の前の方から排泄されるのは一部分にすぎません。子供では後鼻漏を飲み込んでしまうことも多く、胃にたくさんの鼻汁が取り込まれ、食欲がなくなることもあります。
副鼻腔炎の合併症
副鼻腔炎の合併症としては、目や頭蓋内すなわち脳に影響を及ぼすものがあります。目に関するものでは、視神経炎による視力の低下、眼球運動障害、眼球突出、眼窩内の炎症などがあります。頭蓋内合併症として知られているのは頭蓋内の静脈血栓症、髄膜炎などです。これらの合併症が発生した時には、原因となっている副鼻腔の病変を除去するための手術も必要となります。
名古屋市立大学名誉教授 馬場駿吉 監修
「副鼻腔炎のおはなし」 (千寿製薬 あすか製薬 発行)より